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京都家庭裁判所 昭和56年(少ハ)4号 決定

少年 Z・Z(昭三六・一二・一九生)

主文

少年の収容を継続しない。

理由

(申請の要旨)

本件申請の要旨は、別添の奈良少年院長作成にかかる昭和五六年一一月一六日付申請書(奈少院発第五八六号)添付別紙(1)申請の理由(編略)記載のとおりであるから、これを引用する。

(裁判所の判断)

少年は、昭和五五年七月一四日京都家庭裁判所において強姦、恐喝等保護事件により中等少年院送致決定を受け、翌一五日奈良少年院に収容され、同年九月二一日逃走事故を起して謹慎処分を受けたのをはじめとして、数回にわたり物品不正所持などにより院長訓戒等の処分を受けたことがあるが、その後生活場面での落着きも認められるに至つたので、昭和五六年九月一日一級上に進級した。そこで同月一八日奈良少年院長より近畿地方更生保護委員会に対し、仮退院の申請がなされたが、同委員会は仮退院後の保護観察期間が一ヶ月しかなく、保護観察へ移行して本人の改善更生を図るには短かすぎることを主たる理由として、同申請を棄却した。

これによつて、少年院長は、「少年の依存性が根強く、自主、自立性の改善が十分とは認め難く、保護観察なく出院させることは、不良交友に対する親和性の強い少年にとつて、地域環境が不良というマイナス要因も加わつて、失敗を招き易い。また家庭での指導には多くを期待できない。」ことを理由として、六ヶ月間の収容継続(但し後半四ヶ月を保護観察期間とする)を求めたものである。

本件調査等によれば、少年の出院後の地域的環境は不良であり、保護者の監護能力も十分ではないことが認められるので、少年の出院後、少年を一定期間保護観察に付し、一定の枠組を与えて、指導監督することが好ましいことは言うまでもないが、一方、少年は一年五ヶ月間にわたる少年院の教育により、生活場面での落着き及びかなりの成長が認められ、一級上に進級し、仮退院の申請がなされるまでに至つているのであるから、これに対して、主として相当期間の保護観察をなすために収容を継続することは、反つて少年の更生意欲を失なわせることとなるおそれが強く、また、僅か数ヶ月間の院内教育により、少年の問題点である依存性の強さ、自主、自立性に欠けることを矯正する点での教育効果を上げることは困難であると考えられる。そして、少年の退院後の帰住先等としては、実父のもとに帰り、実父の勤務する叔父経営の建設土木機械の修理会社従業員として就労する旨の協議がなされていることでもあるから、この際は少年を早期に出院させたうえ本人の自覚に訴え、その自立的な社会復帰を図るのが相当であり、収容を継続する必要はないと認められる。よつて少年審判規則五五条によつて準用される少年法二三条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 白川清吉)

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